厳しい市場環境下で加速する、激しい保険料変動の波
英国では、ここ数年でカジュアルティ保険市場が大きく変わりました。
保険市場全体では、リスクの高まりにもかかわらず、保険料率が持続不可能な水準にまで下がる兆しが見えはじめています。特に米国を中心に、賠償責任保険の分野では「ハードマーケット」から「ソフトマーケット」へと移行しつつあります。こうした複数の要因が重なり合うことで、市場の不確実性は一段と高まり、市場の動きや結果を予測することがこれまで以上に難しくなっています。
ソフトマーケットとは?
ソフトマーケットとは、いわば「買い手に有利な市場」です。保険料は低く、補償内容は広く、保険会社同士の競争も活発になります。そのため、契約者にとっては保険に加入しやすい環境が整っています。
その反対にあるのが「ハードマーケット」です。保険料は高く、引受は慎重になり、補償内容も限定されるため、契約者にとっては保険が得にくい環境になります。一方で、保険会社にとっては有利な「売り手市場」となります。
このように、保険市場は循環しています。ハードマーケットで利益が大きくなると、競争が活発になり、やがて保険料が下がるソフトマーケットに移ります。しかしその結果、利益が減り、保険金の支払いも増えるため、再び保険料を上げざるを得ず、新たなハードマーケットが始まります。
自動車保険は、災害保険の中でも特に予測が難しい分野のひとつです。人工知能(AI)の進化や電気自動車の登場によって、保険のあり方そのものが変化しつつあります。特に米国では、事故が起きた場所や時期、裁判所や陪審員によって、損害額が大きく異なるケースも多く見られます。そのため、小さな事故でも予想以上の賠償額になることが少なくありません。

インフレと社会的要因による影響
ロンドンでカジュアルティ保険部門の責任者を務めるSally Roberts(サリー・ロバーツ)とともに、拡大する不確実性や予測の難しさ、そして業界に影響を及ぼす経済的・社会的要因について意見を交わしました。この対談の内容は、当社の新しいポッドキャスト番組「Redefining Risk with Sompo(リスクを再定義する)」の初回エピソードとして収録されています。

ポッドキャストでは、米国および欧州で続く「ソーシャル・インフレーション(社会的インフレ)」の影響についても取り上げました。保険料率は一部で下がりつつありますが、物価上昇の圧力は依然として強く、広範囲に影響を及ぼしています。一般的な物価が上昇すれば、材料費や製品価格、関連コストがすべて高くなるため、特に賠償責任保険や財産保険では、保険金支払いのコストも連動して上昇します。実際、保険金支払いコストの上昇率は、経済全体の平均インフレ率を上回る傾向にあります。こうした現象を保険業界では「ソーシャル・インフレーション」と呼び、主要なリスク要因の一つと位置づけています。保険料を算定する際には、この影響を精緻なアクチュアリー(保険数理)モデルに正しく反映させることが不可欠です。
ポッドキャスト「Redefining Risk with Sompo」

世界の保険市場の「いま」と「これから」を、Sompoのエキスパートが多角的に読み解きます。番組では、実践的なヒントや深い対話を通じて、未来をより前向きに見つめるためのインサイトをお届けします。
詳しくは、ポッドキャスト「Redefining Risk with Sompo」(英語)でお聴きください。
近年、インフレ圧力が高まる中、社会構造の変化も保険業界に新たな課題をもたらしています。特に若年層では、以前の世代に比べて権利意識が強く、自己主張も明確です。不当と感じた際には積極的に異議を唱え、行動を起こす傾向が見られるため、カジュアルティ保険における保険金請求の増加や、補償範囲への要求の多様化といった形で、そのあり方に少なからず影響を及ぼすと考えられます。
AIを踏まえて描く保険業界の未来
いま、保険市場の動きを語る上で、AIを抜きにすることはできません。AIの進化は、保険業界の未来に対して根本的な問いを投げかけています。この業界はこれからどんな形へと変わっていくのか。そして、その変化は人々の生活をどう変えるのか。AIの影響は、予測をますます難しくする新たな要素となりつつあります。
AIには、仕事の効率を大きく向上させる可能性があります。さまざまな業務を自動化することで、企業はより本質的なビジネスに時間を使えるようになります。保険の分野でも、お客さまはAIがどのように商品に活用され、リスクのあり方をどう変えていくのかに注目しています。
一方で、AIの活用が進むほど、保険の補償範囲はますます複雑になっています。ポッドキャストでは、自動運転車を例に議論しました。もし製造段階で使われたAIが事故の原因になったとしたら、責任はどこにあるのでしょうか。また、自動運転車の制御ネットワークがサイバー攻撃を受け、それが事故を引き起こした場合、その補償はサイバー保険なのか、自動車保険なのか、あるいは別の保険なのか——。このようなケースは、人身事故や物損事故の扱い方に新たな課題を突きつけています。AIの影響で多くの境界が曖昧になる中、保険業界はお客さまやブローカーと協力しながら、その線引きを明確にしていくことが求められています。

「一部の市場では、これまでは考慮すらしなかったリスクについて深く検討する必要性が高まっています」
誠実さをもってソリューションを導き出す
ポッドキャストでは、市場の不確実性、ソーシャルインフレーション、AIがもたらす変化を取り上げました。課題は多くありますが、私たちは決して怯むことなく、前向きに取り組もうとしています。お客さまのため、「グレーゾーン」における最良なソリューションを見つけること。私たちはそこにやりがいを感じています。

実際の現場では、お客さまやブローカー、保険金対応やリスクエンジニアリングの担当者と直接向き合い、課題を深く理解することから始まります。そして、その理解をもとに最も適した補償を一緒に作り上げていきます。その過程で生まれる創造性や新しい発想こそが、私たちの仕事の原動力です。
すべてが予測しづらい時代だからこそ、私たちの原則を守り続けることが何よりも重要です。なかでも「誠実」は、SOMPOグループ全体を貫く基本的な価値観のひとつとして、私たちの行動を導く指針となっています。
サリー・ロバーツとの対談では、今回ご紹介した内容以外にも多くの興味深いテーマを取り上げました。ぜひ、ポッドキャストのエピソード全編をお聴きください。



