SOMPO美術館の50周年という記念すべき年に、ロゴのデザインを担当させていただきました。この50周年は、単なる歴史的な節目ではなく、これからの50年へ向かう大切な一歩です。これまでの歩みを深く見つめ直し、新たな価値を再発見する。デザイナーとして、また美術愛好者として、この記念ロゴを手がけられたことは、心からの喜びであり、深い感動を覚える経験となりました。
深い愛ゆえの、徹底した客観性
学生時代から何度も通ったSOMPO美術館は、私にとって特別な場所です。新宿の喧騒にあって、そこだけが空気が澄み渡るような静けさがあり、作品と心静かに向き合える。私にとって、心安らぐ聖域であり、感性を研ぎ澄ますための鍛錬の場でもありました。
個人的な愛情が深いからこそ、記念ロゴの制作には、自分の想いが邪魔にならないようあえて一歩引き、「知る」ことから始めました。ロゴは美術館のものであり、訪れる人々のものです。独りよがりなデザインにならないよう、客観性を保つことを強く意識しました。
SOMPO美術館の半世紀にわたる歴史、時代の変遷、保険業という視点から紐解く社会との接点。さらに、新宿という街の歴史を江戸時代まで遡って調べました。「時間」「背景」「場所」という三つの視点から、あらゆる情報を深く掘り下げたのです。インターネットでの調査はもちろん、美術館の貴重な古い資料を読み込み、国会図書館にも通い詰めるなど、ひたすらインプットに没頭する日々が約4か月間続きました。

再発見した、変わらぬ想い
収集した膨大な情報を私なりに解釈し、50周年を4つの視点から捉え直して、8種類のデザイン案を練り上げました。
50周年を4つの視点から捉えました。
- 思想と未来像を語る50周年
- 社会と記憶を共有する50周年
- 場所と現在地を示す50周年
- 信頼と継続を示すための50周年

私が提案したデザイン案は8種類。ゴッホの作品や建物の外観、新宿の街並みから着想を得たもの、そして「50」という数字そのものにフォーカスしたものなど、そのテーマは多岐にわたりました。
そして、SOMPO美術館の関係者が時間をかけて議論を交わし、最終的に選んだのは、美術館設立のきっかけとなった画家、東郷青児の作品である《超現実派の散歩》をモチーフにしたデザインでした。このロゴ選定プロセスを通じて、美術館にとって「東郷青児」こそが、揺るぎない本質的なキーワードであるという「変わらぬ想い」を、皆が再発見されたと伺い、私も深く納得しました。

数字の「50」に潜む裏話
記念ロゴの制作は、お話をいただいてから完成まで、実に1年以上かけて進めていきました。こだわったポイントを挙げればキリがないのですが、例えばロゴに使用している50という数字は、0~9まで新規に作成したオリジナルフォントです。東郷青児が生きたアールデコの時代を彷彿とさせるデザインを現代風にアレンジしました。
このように、実は様々なポイントで複雑に要素を組み合わせており、見る人によって受け取る意味が異なるようになっています。一見シンプルに見えますが、意外と奥深いのです。

歴史に、未来を接ぎ木する
今回の制作ほど、「知る」という行為に時間を捧げた経験は過去にありません。SOMPO美術館が歩んできた50年の歴史、社会や街の変化、そして美術そのものの変遷。それらを深く掘り下げたからこそ、過去を真摯に見つめ、未来へと力強く繋がる、納得のいくデザインが生まれたのだと確信しています。私自身、制作過程で多くの再発見があり、「知る」ことの尊さと、そこから生まれる創造の喜びを改めて実感する、得難い経験となりました。
今回のデザイン作成は、まるで「接ぎ木」をするような感覚でした。50年という美術館の太い幹の歴史を理解し、そこに新しい未来の枝を接ぐ。だからこそ、これは単なる節目ではなく、新たな始まり、未来への再スタートなのだと感じています。
この記念ロゴが、美術館を訪れる方と迎える側との間で、自然な対話を生むきっかけとなれば、デザイナーとしてこれ以上の喜びはありません。ロゴを前にして、私たちが今どこに立っているのかを再認識し、これからの未来に何が必要なのかを共に考える。そんな小さな波紋が、新宿という街、そして社会全体へと、着実に広がっていくことを心から願っています。



